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 本例は既往歴に胃切除があり、長期のTPNや輸血歴を考慮するものとなった。MDS-RARSを疑う形態異常はあったものの、追加検査で行った血清銅の低値やセルロプラスミンの低下により銅欠乏性貧血と診断された。ビタ...
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 本例は既往歴に胃切除があり、長期のTPNや輸血歴を考慮するものとなった。MDS-RARSを疑う形態異常はあったものの、追加検査で行った血清銅の低値やセルロプラスミンの低下により銅欠乏性貧血と診断された。ビタミンVB12の高値は輸液によるもので、過剰鉄は輸血によるもの、また鉄欠乏は胃切除によるものなどが考えられた。診断後、エレメンミックをTPNに添加し、約20日後にHbは10.8g/dlまで回復し、セルロプラスミンも28.5mg/dlの正常域になった。
 本例のような中心静脈高カロリー輸液(total parenteral nutrition:TPN)や経管栄養が長期間施行されることにより銅を含む微量元素の低下が考えられるので、このような例で貧血が先行する場合は注意を払うことが重要になる。また、形態像はMDS様を呈することでさらに注意を払うことである。
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■症例詳細データ
性別
年齢 75-79
取得年代 2010-2014
主訴 貧血
既往歴 胃癌による胃切除術(約10年前)。MDS(約10ヶ月前)。
現病歴 認知症の診断後、約2年前より中心静脈高カロリー輸液(TPN)に依存するようになり、約10ヶ月前から貧血を認めるようになり、MDSと診断され輸血が開始された。輸血は毎月2~4単位が施行されていた。精査のため当院に入院となった。
検査所見 WBC4,600/μl(St2,Seg28,Eo2,Ba1,Ly57,Mo10)、RBC265万/μl、Hb 8.9g/dl、Ht26.8%、MCV101.1fl、MCH33.5pg、MCHC33.2%、PLT25.6万/μl、Ret.8.0万/μl、NCC24.2万/μl、Fe42μg/dl、TIBC139μg/dl、Ferritin4,505ng/ml、VB12.1,200pg/ml
【追加検査】Cu10μg/dl、ceruloplasmin8.6mg/dl
末梢血所見 大球性貧血のもと白血球は正常であったが好中球の減少(1,380/μl)がみられ、なかに偽ペルゲル核異常や輪状核を認めた。他に巨大血小板も認めた。単球には異常なほど空胞を有するものがみられた。
骨髄所見 骨髄は正形成のもとやや赤芽球系が優位で芽球は正常であった。赤芽球系に一部巨赤芽球様変化を認めた。芽球、前赤芽球レベルを中心に空胞を認めるものがみられた。多染性赤芽球には細胞質に染色性のむら(不染部)も認めヘム合成の障害が伺えた。形態的にはMDSを思わせる所見であった。
細胞化学所見 Fe染色で、マクロファージに鉄顆粒の貪食や環状鉄芽球が多くみられた。鉄顆粒は赤血球にもみられ、鉄顆粒の利用能の悪さが伺えた。赤芽球のPAS染色は陰性であった。
形態診断 骨髄では芽球が正常であり、末梢血に好中球減少(無効造血)がみられたこと、骨髄の赤芽球系に一部形態異常を認めたことや環状鉄芽球の増加よりMDS-RARSを疑った。しかし、長期の輸血やTPN・経管栄養がなされていたことよりそれらの因子を考慮する必要がある。
免疫学的所見 N.D
分子生物学的所見 46,XX
リンパ節所見 N.D
臨床診断 既往歴に胃切除があり、長期のTPNや輸血歴を考慮するものとなった。MDS-RARSを疑う形態異常はあったものの、追加検査で行った血清銅の低値やセルロプラスミンの低下により銅欠乏性貧血と診断された。ビタミンVB12の高値は輸液によるもので、過剰鉄は輸血によるもの、また鉄欠乏は胃切除によるものなどが考えられた。診断後、エレメンミックをTPNに添加し、約20日後にHbは10.8g/dlまで回復し、セルロプラスミンも28.5mg/dlの正常域になった。
(参考文献:岡田定:血算の読み方・考え方.14-16.医学書院.2011)